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体の破片と友達の友達 |
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「チーフ!手、切った!」で始まった今日の仕事。お店のオープンから3時間後の午後8時ちょうどぐらい。「牛のたたき」と共にスパスパスッパ〜ンに研いだばっかりの包丁で本格的に左手の中指の先端の右側をえぐってしまいました。前回は切ったという感じだったが今回は見事にこそげ落としてしまいました。連日の満員御礼で技術だけではなくスピードと記憶力の限界に挑む過酷な仕事、仕事、仕事。外は30度近い暑さの中押し寄せる人、人、人。これぞまさに「シェフの道」。「頑張らねば。もっと強く頑張らねば」と自分に言い聞かせるが、水道の排水口にすべり落ちて行く自分の体の破片を見て何だか悲しい気分になってしまった。(それはたぶん10年間ファッションをしていた手の一部が思い出といっしょに流れ落ちたように感じたのかもしれない)仕事が終わり、家路をたどっていつもの道を歩いて行く。何だか今日はいつになく疲れている。人に会いたい、何か話がしたいと思い1回しか行ったことがない友達が働いている店を記憶をたどりながらひた歩く。窓から店の中をのぞくと友達の笑顔が見えた。何だか急にほっとして明るく店の中に入っていった。 「何か1杯飲ませてくれぇ〜!」「おぉ〜どうしたの、独り?」と会話して左隅のカウンターに座った。こんな日には静かに自分のことをあまり知らない人と会話をしたくなる。彼女なら無条件で俺と会話してくれるような気がした。しかし、俺と彼女は「友達の友達」だった。 みんなもたぶん「友達の友達」は1人はいると思うけどいわゆる「知人」である。共通の友達を隔てての友達、その距離たるものは世界一周が出来る程のものもあれば、はたまたすぐ目の前のものでもある。ちょっと厄介で不思議な関係。今日は彼女と友達になりたくてお店を1人で訪ねたのだ。もちろん話題は「共通の友達」から入るが、話を進めていけばいくほど何か自分の彼女に対するイメージがどんどん変わっていく。そうなのだ、まるで伝言ゲーム。彼女と軽くビールを飲みながら終わりのない会話を楽しむ。彼女自身の見えなかった心の一つ一つが俺の心の中で埋まっていく。すごく気分が良くなってきて嬉しくなってきた。お互い顔は当然知っているのに会話が妙に新鮮。年令や仕事や今まで何をしてきたとかも知らない二人が話す現実的な会話が自分にほんの少し勇気を与えてくれた。「うのみにした俺がバカだった。もう伝言ゲームはたくさんだ。」と心の中で彼女に対して謝った。人の噂ほど信じられないものはなく、一つ間違うと彼女と俺は顔見知りではあったが会話することもなく終わっていたのかもしれない。こんなに多くの人が住んでるこの世界で友達との出会いのチャンスを掴むのも掴まないのもあなた次第である。今日は彼女から「疑問があれば直接本人に確かめる」ということを再確認した日だった。俺は言いたい、「友達の友達」は時には友達以上に友達になる可能性を持っているかもしれない。あなたのまわりの「友達の友達」はどうだろう? ーそして、俺と彼女は友達になった。ー |